『父と暮せば』 ご感想

いろいろなキャストで何度も見、さまざまな機会に何度も読み返して、運びも台詞も殆ど覚えているこのお芝居なのだが、今日の舞台にはまた、大いに感銘を受けた。
劇場のストアハウスと、竹造役の龍昇さんの事務所の共同プロデュース、出演は龍昇さん、美津江役は関根麻帆さんで、今日が初日だった。
100人ちょっとで一杯となる小さな劇場の、観客の目の前で繰り広げられる、被爆からの復興が始まろうとする頃の広島。しかしその受けた傷は深い。
どんなに辛い体験であっても、どんなに生き残ったことに負い目を感じようとも、生きている以上日常は続き、日常が続く以上希望を投げ捨てるわけにはいかない。
美津江の心の中の葛藤が、竹造との対話として描き出されていく。今回の舞台は、舞台上のお二方によって、それがまことにきめ細やかに表現されていた。演出の西山水木さんの意図が、よく伝わってくる熱演だった。そのエネルギーを通じて、井上ひさしさんの台本の言葉の深みと力が、熱く静かに伝わってくる。
客先からは何度もあちこちから啜り泣きが漏れ聞こえてきた。ぼくもまた、時に涙した。「父と暮せば?あぁもう何度も見たし」と仰る方にも、もちろん未見の方にも、心から観劇をお薦めしたい。上野ストアハウスにて、29日まで。

 
島村 輝(1月25日観劇)