≪ 演出・出演者 インタビュー ≫

■第1回 
 
――まずは今作の意気込みをお願いします!
 
西山「すでに関根麻帆さんと龍昇さん、ストアハウスさんの意気込みがもの凄く、演出としてお声がけいただいた事の重大さに恐れ慄いています(笑)。
 若輩の頃から井上ひさし作品にはお世話になってきました。井上先生には非常に可愛がっていただきました。今も『センセイ』とお呼びできることが誇らしいです。センセイから未来への大切な贈り物をお預かりしたのだと思います。小さいけれど伝わる声で、井上先生の言霊をお届けしたいです。
 思えば、美津江は私の両親と同い歳です。私は、両親の『幸せで申し訳ない』感に晒され、自己評価の低い世代です。父は大腸癌の手術の傷を撫でながら何度も『やっと少しは切腹できた』と言いました。認知症の母は今まさに父(私のとうに亡くなった祖父)を蘇らせ『お父ちゃん!お父さん…』と呼びかけ暮らしています。今も身近に、世界中にいる、そんな『申し訳ない』人たちの心に、そっと暖かく灯を点したい、そんな願いで作ります」
 
関根「先日広島に行き、直爆(直接被爆)された方のお話を伺ってきました。お話を伺っている中で “被爆体験を語り継ぐ人が年々減ってきていることが心配だ” とおっしゃっていました。その方は、足腰もとてもしっかりとしていらして本当にお元気で、はっきりとした口調でお話をしてくださいましたが、やはり92歳とご高齢でした。
 今、77年前の出来事はペンの力や、報道の力で多く語り継がれています。私にできることは演劇の力で語り継ぐことです。被爆者の方の苦しみは今も続いています。終わることはないのです。今後、ただの『歴史』としてこのことを風化させてはいけない。そういう想いで取り組んでおります」
 
龍昇「ロシアのウクライナ侵攻により、世界に分断化が進み、核の危機が目の前に迫っている今、なんとしても核戦争を回避しなければなりません。せめてこの作品を上演することが、演劇人の使命と思っています」
 
――西山さんは演出のオファーがあったときいかがでしたか。 
 
西山「驚いて嬉しくて胸がいっぱいになって泣いちゃいました」
 
――とても素敵ですね。一方、2018年にも同作で共演された関根さんと龍昇さん。前回公演で印象に残っていることはありますか。
 
関根「私は毎回どうにもならないほど緊張していたのですが、龍さんはいつでも驚くほどの平常心(笑)。これが経験値の違いかと、感心しきりでした」
 
龍昇「初めての井上ひさし作品への挑戦でした。セリフがたくさんあり、出来るかどうか不安でした。
上演後、『本当の親子に見えた』と感想をいただいたのが嬉しかったです」
 
――再演にあたり、どんなことを心がけていきたいですか。
 
関根「この本は重く哀しみが深いテーマを持っていながらも、ある軽快さを感じるのは広島弁の持つ音色のおかげだと思います。それを踏まえ、前回よりももっと身体に馴染ませていきたいと思っております」
 
龍昇「何もできないですが、この緊迫した状況の中での上演となります。シビアに、ウェットではなくドライな表現を目指します」


■第2回
 
――ストアハウスコレクションExcellent Worksでは国内の「秀作」が上演されますよね。そこで、皆さんが思う『父と暮せば』の魅力を教えてください。
 
西山「私は『父と暮せば』は、日本語を話す演劇人の必須科目にすべきだと、いや、真面目にそう思います。今この時も、たくさんの美津江と竹造が涙を振りしぼって稽古や本番を務めていると思います。
 このふたり(ひとり)の言葉を、同じ空間で生きている人の声で聴く…演者も同時に自分の内側から聞いている…。こんな劇的体験を共有できること。これぞまさに『秀作』ですね」
 
関根「重く哀しく鋭いテーマを、おとったんと美津江の軽妙な掛け合いで優しく明るく包み込んでいます。『イキテイルモノ』の心象風景によって話が展開していくところに演劇的魅力を感じます」
 
 
 
龍昇「原爆投下後の広島を舞台にして、父とひとり取り残された娘の会話を通して、人間が生きていく哀しさ、楽しさを伝える演劇です。そして、夢幻能の形式をとりながら、人間の楽しさ、哀しさを伝える演劇本来のちからを発揮することができる作品です」
 
――二人芝居ということで、お互いの魅力を教えてください。
 
関根「なんといっても龍さんは格別にチャーミングです(笑)。
 そして龍さんが出てくるとなんか笑っちゃうんです。なんだか、何とも言えない “おかしみ” があるんですよね。台詞が無くても、ただ立っているだけの時もなんか笑っちゃう。何もしていないのに(していなさそうに見せて)おもしろいってズル……やっぱり流石だなぁと尊敬しております」
 
龍昇「関根さんは、人が見てのけぞる様な美人ではないかもしれませんが、よく見れば、愛嬌のあるいい顔立ちをしています。美津江にピッタリでした。会話の息がピッタリ合いました」
 
――西山さんが思う、関根さんと龍昇さんの魅力はどんな点ですか。
 
西山「不思議な二人ですね。龍昇さんの、アングラ魂と知性、いつも優しい表情と穏やかな佇まい。お茶目な対応に場は和みます。一方で関根麻帆ちゃんの、火花が散りそうなイキのいい気風。しっかり基礎を積んだ演技と常にビビットに動く感性での役作り。
 世代、リズム、性格から容姿も、何もかも正反対。どこに接点があってなぜ一緒に企画したのか不思議ですね。正反対だけど互いに呼び合っているような引力を感じます。正反対ゆえに近寄るとそれぞれの輝きが増す気がするんです。『もうひとりの私』に最適です」

■第3回
 
――西山さんが演出されるうえで、どんな点にこだわっていきたいですか。
 
西山「こだわりはたくさんあるのですが、その中であえて一つ選べば、生活感を大切に描きたいと思います。どんな悲劇が人生を変えても、人はその性質を持ったまま暮らしていきます。暮らしてきたように暮らしていく人生という時間があります。
 女性としての役割を教育され、家族を失い価値観を変えられ、そしてよりよく生きて行きたいという主人公の智慧を支える毎日の丁寧な暮らしを描き、そこに触れていただきたいです」
 
――ご自身の演じる役と共感できる点はありますか。
 
関根「この本の中では想像力を最大限に使い、想いを馳せる部分がほとんどですが、親の愛に感謝し、また親を想う気持ちは美津江と同じだと思っています」
 
龍昇「私は、私生活でも子供思いのいい父親です。役とピッタリだと思います」
 
――最後に、当日を楽しみにされている方へ一言お願いします!
 
西山「終演後、皆様それぞれの大切な誰かにそっと呼びかけてみて下さい。すぐ会えます。何度も会えます。そのコツをご紹介します。どうか必ずいらしてご覧下さい」
 
関根「劇団青年座の先輩であり、役者としても大尊敬している水木さんに演出していただけることが今回とても楽しみです!日頃から仲良くさせていただいている龍さんのおとったんと、哀しくもあたたかいこの作品を丁寧に演じてまいりたいと思います。皆様に楽しんでいただけるよう頑張ります!」
 
龍昇「『父と暮せば』、幻の父と暮す娘の嬉しさ、切なさを味わっていただければと思います」
 

西山水木(演出)
佐賀県出身。桐朋学園芸術短期大学演劇専攻卒業。 1978年に劇団青年座に入団。 退団後、「 E. Dメタリックシアター」を経て「ラ・カンパニーアン」「下北澤姉妹社」などのユニットのほか「プリエールプロデュース」「加藤健一事務所」「こまつ座」などで俳優として、また作家・演出家としても活動。 海外公演も行い、高い評価を得ている。初日通信大賞 助演女優賞受賞(1988/89年)。読売演劇大賞 優秀女優賞(1997年)。

  

関根麻帆
3歳からバレエを始め、14歳でイギリス・エルムハーストバレエスクールに単身留学。劇団青年座研究所を経て劇団四季入団。「魔法をすてたマジョリン」での主演を初め代表作多数。四季退団後、ミュージカルからストレートプレイまで幅広く活動している。 

 

龍昇
演劇団(現・流山児★事務所)に在団後、1985年龍昇企画設立。
以後俳優兼プロデューサーとして年1~2本のペースで着実に作品を発表し続けている。ひとりの役者が、作家・演出家・キャスト・スタッフを雇い、プロデュースするというスタイルは、日本の演劇界においては珍しいといえよう。
これまでも様々な作家(平田オリザ・平田俊子・前川麻子・犬井邦益・天野天街・佃典彦)や、演出家(佐藤信・岡本章・松本修・福井泰司・大橋宏・木村真悟・柴幸男・西沢栄治など)と手を組み、演じ、生み出された作品は多岐に渡る。
「アジアミーツアジア」「フィジカルシアターフェスティバル」等、各フェスティバルの実行委員を継続的に務める。
2017年、佐藤信らとともに「若葉町ウォーフ」を設立、理事として運営に参加している。