劇評集

『縄』ストアハウスカンパニー
千年文化芸術祭・論評賞 
高橋知世
 
劇団では「身体劇」という言葉を使っているようだが、文字通り体を張ったパフォーマンスである。しかし、ダンスではないし、いわゆる"ハプニング"のようなものでもない。
台詞も明確な筋立てもない。
数名の役者たちがただひたむきに舞台を歩き回り、時には走り、転び、縄と格闘するのである。
長短様々な縄を使った変則的な動きは、一見即興のように見えるが、その裏には緻密な演出と想像もつかない役者たちの努力が隠されているのだろう。
こちらもひたすら役者の動きを目で追っているうちに、いつのまにか「縄」の世界に引きずり込まれ、自分を彼らと同化させていることに気がついた。また、縄がその形を変えるに従い、想像力を掻き立てられ、様々なストーリーが頭に浮かんだ。
最初は整然と積み上げられていた縄は、ほぐされ、絡まり、絡みつき、放り出され、解かれ、その過程でいろいろ意味を持ってくる(ように見える)。
縄は結ぶものであり、区切ったり、分けたりするものである、縛るものである。私のとって絡まった縄は、複雑な人間関係であったり、混線した携帯電話の電波であったり、世界中を駆け巡る光ファイバーであったり、現代社会を象徴しているように思えた。
非常にシンプルな舞台である。縄と取り憑かれたような役者たちの演技。しかし、シンプルであるがゆえに、彼らの真剣なまなざし、息遣いや、滴る汗が強い印象を与える。正直なところ、何に心を動かされたのか良く分からない。どちらかというとスポーツを見終わった後の感動に近いのかもしれない。
「演技」ではない、人間の本質的な部分を見たような気がする。
今後、「ストアハウスカンパニー」が劇団としてどのように成長していくのか、またどのような方向に向かっていくのか非常に楽しみである。