『テアトロ』1999年8月号より 
浦崎浩實
 
ストアハウスカンパニー公演、木村真悟=構成・演出「箱―Boxes―」(6月16日~20日、江古田ストアハウス)は私にとって驚きに満ちた、新鮮なステージだった。このグループは演劇を標榜しているが、台詞によるコトバは、ここではひとことも発せられない。絶え間ない肉体の運動、その身体性こそ、コトバなのである。モダンダンスだと主張しても怪しまれないだろうが、ダンスの身体性が上に伸び上がるという引力に抗う動きだとしたら、本作における肉体は地面と不可分な関係で動いている印象である。だから、これは演劇なのだろう、と私たちは見当をつける。黒いタイツの女3人、男4人が登場、平面に散らばった帽子、靴、鞄を順々に拾い上げ、身支度し、シャツ、ネクタイなども拾い上げて鞄に詰め込んでいく。彼らは一列になってさまざまな曲線で激しく動き、やがて、目隠しのブロック塀のように積み上げられていた長四角の20個の箱を動かし始める。パズルのような土台を足下に作り始めるが、最後の20個目の箱が運ばれると最初の1個に戻り、それを幾度も繰り返し、しかし土台はその都度、形態を変えていく。 "物語"らしきものも覗かせはするが、1時間10分、エンドレスで果てしなく続くかと思われる"運動"は、我々を具象性から解放し、具象に疲れた我々を慰撫するのだった。音楽はリフレイン音楽のスティーヴ・ライヒなどが使われているのだろうか。聞き覚えがあるような気がするが、違っているかもしれない。思えばベルガモで「ハムレット」を観ていた時も俳優の身体が発するコトバに、私は頼り切っていたのである。