コミュニケーションについて
俳優には、コミュニケーション能力が必要とされている。
したがって、俳優はコミュニケーション能力を高める努力をしなければならない。
といわれると、それはそうだと、思わず肯いてしまう。
しかし、本当にそうだろうか。
天邪鬼な私は、そうつぶやいてしまう。
大体、俳優に必要なコミュニケーション能力とは、具体的にどんな能力なのだ。
当たり前のことだが、人間は一人では生きていくことができない。生まれて老いて死ぬまでの間、人間は自分以外の他者と関係をとることで生きていくのである。私たちは、会社やアルバイト空間だけではなく、恋愛や、家族、私たちが生きていくうえで必要なさまざまな場所において、コミュニケーションの必要に迫られている。
世の中には、口下手な人もいる。それとは逆に自分の考えを的確な言葉で言い表せる人もいる。場の空気を読むことにたけている人も、空気を読めない人もいる。
つまり、世の中には、コミュニケーションが上手な人と下手な人がいるのである。そのことは間違いない。
しかし、問題は演劇である。
演劇におけるコミュニケーションである。
俳優に必要なコミュニケーション能力である。
俳優は、一般的に考えられているコミュニケーションが上手である必要はないと、私は考えている。いやどちらかといえば、一般的に考えられているコミュニケーションが下手な人こそ俳優になるべきであるといっていい。
俳優は、自分の思っていることをうまくいえない存在なのだ。
それは、俳優は日常的に行なわれいるコミュニケーションのあり方に疑問を持っているからだ。
つまり、俳優に必要とされている、コミュニケーション能力は、一般的に上手に話す能力なのではなく、そのことを疑う能力である。
物事をすらすらとよどみなく言い切ることではなく、絶えず口ごもる筋力こそが必要とされているのである。