俳優教室開催にあたって ―その2―

2010年8月3日

 コミュニケーションについて

 俳優には、コミュニケーション能力が必要とされている。


 したがって、俳優はコミュニケーション能力を高める努力をしなければならない。

 といわれると、それはそうだと、思わず肯いてしまう。

 しかし、本当にそうだろうか。

 天邪鬼な私は、そうつぶやいてしまう。

 大体、俳優に必要なコミュニケーション能力とは、具体的にどんな能力なのだ。

 当たり前のことだが、人間は一人では生きていくことができない。生まれて老いて死ぬまでの間、人間は自分以外の他者と関係をとることで生きていくのである。私たちは、会社やアルバイト空間だけではなく、恋愛や、家族、私たちが生きていくうえで必要なさまざまな場所において、コミュニケーションの必要に迫られている。

 世の中には、口下手な人もいる。それとは逆に自分の考えを的確な言葉で言い表せる人もいる。場の空気を読むことにたけている人も、空気を読めない人もいる。

 つまり、世の中には、コミュニケーションが上手な人と下手な人がいるのである。そのことは間違いない。

 しかし、問題は演劇である。

 演劇におけるコミュニケーションである。

 俳優に必要なコミュニケーション能力である。

 俳優は、一般的に考えられているコミュニケーションが上手である必要はないと、私は考えている。いやどちらかといえば、一般的に考えられているコミュニケーションが下手な人こそ俳優になるべきであるといっていい。

 俳優は、自分の思っていることをうまくいえない存在なのだ。

 それは、俳優は日常的に行なわれいるコミュニケーションのあり方に疑問を持っているからだ。

 つまり、俳優に必要とされている、コミュニケーション能力は、一般的に上手に話す能力なのではなく、そのことを疑う能力である。

 物事をすらすらとよどみなく言い切ることではなく、絶えず口ごもる筋力こそが必要とされているのである。

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