動くな
そして
立ち止まるな
ただ耳を澄ませ
冷蔵庫の野菜室のなかで
かさかさに乾いた白菜の葉っぱのなかにいる
お前の耳は何を聞いているのだ
冷凍保存された俺の眼球は
まな板の上の合い挽きのミンチの中で溶け出している
おい、そこの誰か
そうだよ
そこにすわっているおまえだよ
早いとこ畳屋に走って、針と糸を借りてくるんだ
溶け出した風景の中で、ミシンを担いだおふくろが走り回っている
あ
もう間に合わない
たちまちのうちに凍りついた大海原は
あっという間にかき氷にされて
さらさらと粉雪になって降り積もる
そっと舌の上にのっけてみると
なんだか苺の味がする
そうだ、そんなもんだ
毒茸にしびれた俺の舌が
もつれながら何かを叫んでいるらしい
が、おそらくはそれも嘘だ
だからさっきから言っているじゃないか
真実なんかどこにもありはしないんだって
だから
動くな
そして
立ち止まるんじゃない