日韓演劇週間 vol.2

―家族を描きながら―

2014.11.19-11.24


出演

コルモッキル(韓国)

温泉ドラゴン(日本)

ゲキバカ(日本)


韓国の現代演劇を代表するパク・クニョンが主宰する劇団コルモッキルと、東京を中心に活動する気鋭の若手劇団、温泉ドラゴン、東京・関西で活躍するゲキバカが、「家族」をテーマにぶつかり合う!




  

コルモッキル

『青春礼賛』

家庭の問題で彷徨する青年とその家族の物語。
主人公は高校2年生。毎日不良仲間と遊び歩き、留年を重ねている。父親は働く意欲もなく、ひたすら焼酎を飲みながら一日中寝転がっている。母親は、父親の暴力のせいで失明し離婚今は再婚してマッサージ師として働いている。
ある日、青年はてんかんの発作を持つ女性と出会い、父と三人で暮らすことになる。

この作品は1999年に初演。その年のあらゆる演劇賞を総なめにした。
韓国で最も注目を集める劇団、コルモッキルが描く、生々しく、今も苦しみと貧困の中で挫折しながらも生きていく家族の物語。
誰が青春は甘く美しいといったのか?
青春はほろ苦く、人生は果てしなく長い坂道…。

作・演出:パク・グニョン
出演:イ・ギュフェ、チョン・ウンキョン、キム・ドンウォン、イ・ボンリョン、キム・ジュホン、イ・ホヨル、シン・サラン、パク・ジュチョリ

温泉ドラゴン

『桜』

田舎町の山中で起きた殺人事件。
被害者は23年前に同じ場所で死んだ男の娘だった。
山の桜だけが見た、過去と現在を繋ぐ真実。

桜は見ていた。遠い昔の罪を。背負い、抱き合い、生きる男と女。
しかし、桜は赦さなかった。
これは愛の物語である。

公式サイト


作・演出:シライケイタ
出演:阪本篤、筑波竜一、いわいのふ健、小高仁、井上幸太郎、牛水里美

ゲキバカ

『男の60分』

母がなくなり、久しぶりに実家に帰ってきた「オレ」。仲間と遊んだ野原、無茶して溺れた川、冒険心を掻き立てられた山。当時とは変わってしまったもの、けして変わらないもの。
そして母への思い。

2009年に開催された演劇博覧会「カラフル3」にて、観客投票賞、および高校生が選ぶハイスクールミーティング賞を受賞した代表作。幼い日の友情と別れ、母への淡い慕情など、人種・性別・世代を超える普遍性をダンスを交えた身体表現とともに観客にダイレクトに訴える。

公式サイト


作・演出:柿ノ木タケヲ
出演:石黒圭一郎 鈴木ハルニ 伊藤亜斗武 菊池祐太 志村朋春 書川勇輝 加藤靖久

ストアハウスコレクション「日韓演劇週間」開催に向けて

 
 ストアハウスコレクションは、ストアハウス代表の木村真悟が、これはと思った芝居を観るためにつくられた企画であり、誠にわがままで勝手な企画なのであります。したがって、この企画によって、世の中が変わったり、世界が変わったりすることはありません。
 そう断言してしまうと、代表の木村真悟は、口をへの字に曲げて拗ねてしまいそうなので、ほんのちょっとだけ訂正します。
 この企画によって、世の中が変わったり、世界が変わったりすることはないのだろうが、観客の皆さんを含め、この企画に関わった人たちとともに、何らかの変化を手にすることができたなら、それはこのうえもなく幸せなことであります。
いかがでしょうか、木村さん。
「僕は、あれです。演劇っていうのは、他者を知る手段だと思っているんですよね。それは目的と言い換えてもいいわけなんですが、で、他者っていうのは、自分の中にも住んでいるわけで。つまり、自己の中の他者っていうか、そういう存在を通して、初めて現実の変化にも気づくことができるわけで、そのためには・・・つまりあれです。猿のイモ洗いを考えてみるとですね、それがどうやって伝わっていったかということを考えるとですね、そこには国境なんかないわけなんでよ、ですから・・・」
さて、昨年に引き続いての、「日韓演劇週間」。
今年度は、コルモッキル(韓国)、温泉ドラゴン(日本)に加え、新たにゲキバカ(日本)が加わり、3劇団の競演になります。
乞う、ご期待。

ストアハウスコレクションについて

 
 ストアハウスコレクションは、ストアハウスの自主企画による主催事業の総称です。
第一回は、2013年9月、コルモッキル(韓国)、温泉ドラゴン(日本)の参加による「日韓演劇週間VOLⅠ」として開催されました。
ところで、2011年3月11日以降、日本では、「絆」という言葉が盛んに叫ばれましたれ。2011年6月1日に開場した上野ストアハウスにおいても「絆」をテーマにした作品が多く上演されたように思います。
確かに、「絆」は大切です。「絆」は、とても重要な言葉です。しかし「絆」は目には見えません。いくら心の中で何千回、何万回、「絆」は大事だと唱えたところで、「絆」はどこにも見当たりません。
大事なことは「絆」によって「何」を繋ぐのか、ということです。
しかし、その「何」が「何」なのかがわからない。
そこで、ストアハウスは、上野ストアハウスを中心に、この世の中の様々な見えないものを「繋」いでみようと考えてみました。
「繋」ぐことによって、「何」が見えるのか見えないのか、それはまだ誰にもわかりません。それは果たして、「絆」であるのかどうか、それすらもわかりません。
しかし、「繋」ぐことによって生まれる「言葉」の可能性だけは信じ続けたいと思います。それは、私たちの演劇に対する希望でもあります。
日韓演劇週間は、見えない「日本」と「韓国」を繋ぐための企画です。
ストアハウスコレクションは、「繋」をキーワードに、今後も継続していく考えです。
 
ストアハウス代表 木村真悟


劇評

 
『青春礼賛』を見て

大笹吉雄

 
 劇団コルモッキルの「青春礼賛」(朴根享作・演出)を上野ストアハウスで見た。石川樹里の的確な字幕翻訳を得て、とても興味深く、また面白く見た。が、一方、現在の日本ではとてもこういう設定や表現はできないというところもあって、その意味ではよし悪しということとは別に、日韓の相違をも痛感させられた。まずこのことから書く。
 パンフレットによれば、父=イ・ギュフェ、母=チョン・ウンギョン、青年=キム・ドンウォン、先生=キム・ドギュンなどと並んで、てんかん=イ・ボンリョンとある。この役名に驚かされる。日本では公の場ではとうてい許されない言葉である。そういう言葉を差別語といい、そういう言葉を使った表現を差別表現という。これは新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、書籍、映画、演劇、音楽など、あらゆるメディアで使用禁止なのである。
 差別語や差別表現に対する社会の目が厳しくなったのは、1970年代ころからだったと記憶する。身体の障害や生活環境に関する表現が次第に厳しさを増しはじめ、一時は「言葉狩り」との反発や表現の自由を奪うものだとの意見も出て、言葉の取り締まりの厳しさに抗して断筆宣言をした小説家も現れた。しかし、大勢は使用禁止の方向に流れ、揚げ句には「三人片(さんにんかた)輪(わ)」というタイトルの歌舞伎舞踊などは、永久に上演されることはなくなった。
 そういう日本から見れば、「てんかん」という役名やその病気の女性が舞台に登場するのみか、実際に病状を演じて見せたりする「青春礼賛」のような演劇は、日の目の見ようがない。もしコルモッキルの公演が上野ストアハウスという限られた演劇ファンの間でしか知られていない劇場以外で持たれたとしたら、外来公演だったとしても社会的な問題になっていたかも知れない。さらに言えば、日本のメディアでは「青春礼賛」の劇評が書けない。この舞台が韓国では数々の演劇賞や戯曲賞を受賞していること自体、日本では考えられない。逆に言うと、韓国の演劇人にとっては、わたしがこう書いていることが驚きなのだろうか。
 しかし、冒頭に書いたように、わたしは面白く見た。その理由の大半は、俳優の演技にある。この劇団の俳優の演技のリアルなことと、メリハリのきいた感情表現、そして声の使い方に魅力を感じた。ことにむずかしい設定の「てんかん」を演じたイ・ボンリョンの演技に感銘を受けた。そういう娘がそこにそうして生きているのを、はじめはひそかに、そして徐々に強く感じさせてくれて、最終的には圧倒的な印象を残した。役の波動の軌跡が見事だった。
 
 

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